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SQUARE ENIXの作曲家である鈴木光人。ゲームサントラとは一線を隔てた鈴木光人完全オリジナルアルバム「IN MY OWN BACKYARD」がiTunes限定にて配信が開始された。この作品はSQUARE ENIXと鈴木光人によるElectronicMusicの到達点であり、新しい世界観へむけた出発点でもあると言えるだろう。8ビットファミリー2の制作者であり、また制作過程で活用された という8ビットシリーズと「IN MY OWN BACKYARD」の魅力を鈴木光人さんに語ってもらった。
よろしくお願いいたします。まずは、鈴木さんの音楽制作の環境についてお尋ねさせていただきます。現在どのような環境で音楽制作をされていますか?
Steinberg CubaseSX、
propellaheads Reason、
Roland TR-606/JUNO-106、
Eventide DSP4000、
audiooo.com cyan/n&Sep

 基本はこのセットで制作するのですが、後はその時々によって変化します。ハードもソフトも万能な機材よりも、それでしか出ない味のあるものが好きで、結果的にはそういうものしか手元に残っていないです。アナログ機材はよく壊れるのですが、個体差があったり時によくわからない行動をおこすところがイージーで好感がもて、愛情も深いですね。TR-606/JUNO-106はカスタマイズしてあるので世界に一台のモデルと言えます。環境の見直しは仕事に合わせその都度行いますが、機材を変更する事がアップなのかダウンなのか時々よくわからない事も正直あります。
確かに、ソフトのバージョンアップによる不必要な機能追加で、PC側の動作が遅くなったりすることは非常に多いですよね。。そういった意味では鈴木さんは比較的身軽な環境での制作をベースとされていますね。あとcyan/n&Sepを早速ダウンロードしてみます。今回は新作をリリースとのことですが、それはどのような内容なんでしょうか?
所属しているSQUARE ENIXからiTunes配信リリースとなります。タイトルは「IN MY OWN BACKYARD」。
……「庭」ですね。
 
 iTunes配信はパッケージと違って配信日の直前まで音源制作ができるので〆切があるようでない不思議な感覚でした。時間が許す限りやり直しがきくので自由度が高い代わりに余計な仕事も増えてしまう、、そんな状況の中、強引に区切りをつけてマスタリングを迎え完成となりました。

 内容的にはElectronicMusicで、自分の意志を持って動くような有機的な電子音の息吹と空気感に魂を込めた作品ですが、シンプルに言うとエレクトロニカです(笑)
鈴木光人
94年、田中フミヤの主催する〈TOREMA〉からARP2600の名前でデビューし、創世記の日本のテクノ・シーンで支持を得る。その後、細野晴臣によるテープ・コンテスト「Ecole de Hosono Haruomi」受賞。アンダーグラウンドを越えたフィールドでも注目される。97年、細野氏の主催するレーベル〈Daisy world〉第1弾となるコンピレーション・アルバムに参加。'97年、overrocketを結成し活動を始める。その一方、'98年にはエレクトリック・サティの名でコンセプト・アルバム「gymnopedie '99」をリリース。サティ作品を斬新な視点でとらえ直すなど、鈴木光人の独自な音楽性が音楽シーンはもとより各業界から多数の支持を得る。現在はSQUARE ENIXにて作曲家、マニュピレーターとして活躍している。
ゲームソフトメーカー「スクウェア・エニックス」がゲームサントラとの一線を隔した完全オリジナル曲集の配信を開始!!本作はゲーム音楽作曲家である“鈴木光人”がその枠を超え、自身の持つ無限の音楽性を色濃く表現した一作。

タイトル:IN MY OWN BACKYARD
収録曲:10曲
DL価格:1200円
2007年11月27日発売

レコード会社:スクウェア・エニックス
レーベル:SQUARE ENIX MUSIC

■公式サイト
http://www.square-enix.co.jp/
music/sem/page/dl/mitsuto/

CDではなく、配信限定のリリースなんですね。エレクトロニカというのはなんとも鈴木さんらしいですね。ちなみに、制作は鈴木さん一人で制作されているとのことですが、苦労した点などはありますか?
音楽的なジャンルにも左右されるのですが、今回は日常的に素材やモチーフがどんどんできたりとフットワークの軽い状態でしたので、人とやる意味があまりなかった。
 
 複数人で一つの作品を作る場合は、自分にない要素が出てきたり、変化していく心地良さが醍醐味なのですが、きっと今は一人で表現する事が心地良い時期なんだと思います。何年か周期でやってくる波のようなものなんですけど。

 今回のようなパーソナルな音楽を作っている時って、モロに普段の感情が反映された音になるのですが、完成したものを聴き返してみると、非常にゆるい雰囲気なのできっと穏やかな気持ちで毎日制作してたのだと振り返る事ができます。というわけで苦労した点は特にありませんでしたね。
とても穏やかな気分で、尚かつアイデアが溢れているなんて充実している証拠ですね。確かに作品にもエレクトリック独特の冷たさやというよりも血が通っているような暖かなサウンドに感じました。ホント、有機的ということばがまさしくぴったりですね。ちなみに、今回弊社の8ビットシリーズを利用いただいたとのことですが、鈴木さんが8ビット系の音に興味をもたれた切欠はなんだったのでしょうか??
 ファミコンはど真ん中世代ですから、まぁ、自然な流れですよね。現在もBGMを聴くだけで当時の情景が鮮明に思い出される程、強烈な記憶として残ってます。そういえば小学生の頃に友達三人集まったらゲーム音楽のメロ、ベース、ドラム(時に効果音)といった担当を決めて歌ったりしてましたね。バルーン・ファイトとか凄くキャッチーで今でも鼻歌で歌ってしまいます。

 8ビット系の魅力は二つあって、一つは電子音としてプリミティブで唯一無二な点。二つ目はよく語られる話しですが、ファミコンPSG3音のアレンジ技で代表される、音楽的な要素とプログラミングの要素を組み合わせて作り上げられる楽曲の世界観に尽きます。制限のある中でやりくりして音を鳴らすという部分では、現在のNintendo DSのようなゲーム音楽の内蔵音源にも受け継がれていますが、ファミコンで代表されるPSG音源は、本来ゲームとワンセットのはずのBGMが良い意味で一人歩きする、そんな時代の「音」すら感じさせます
8ビット以外の他のサンプリング音源などを使用することはありますか??
 頻繁に使うドラムマシンの音色は全てサンプリングしてライブラリー化して保存してあります。必要に応じて呼び出すといった感じですね。

 またフレーズ物のサンプルの場合はエディットする事がほとんどなので、素材集から抜いたものでも自分で演奏した生楽器であっても、結果的に波形を曲げると言う意味ではほとんど同じ感覚で扱ってます。自分の環境ではなかなか手に入らない楽器の場合は重宝しますね。
そして、率直な質問ですが、当社の8ビットシリーズの出来はいかがでしたか??
 8ビットシリーズ1&2共通して言える事は、ここまで8ビットに特化したソフトは今までなかったので素材集として突き抜けてますよね、やっぱり。

 nanoloopを取り込んだり、VSTiをインストールしてフレーズ組み立てて…という手順が面倒で、でも8ビットの雰囲気を出したいっていう人に手軽に使えるソフトだと思います。

 8ビット2に至っては、Reason Song File「RNS形式」も収録されており、オーディオでは無理のある音程エディットをReason上で直接MIDIで行えるのは大きいですね。そういう意味ではMIDIファイル素材集とも言えるので、非常に自由度が高い楽曲制作の素材となるのではないでしょうか。
それでは8ビットシリーズで特にお勧めの音やフレイズはなんでしょうか??
8ビット2 RNSファイル G-02.rns
ノイズハット、チャンネルディレイ、LFOをテンポシンクさせたビブラート効果と、スタンダードな8ビット(ファミコン)サウンドの雰囲気を出してみました。コンフィグ画面のイメージですね。

8ビット2 RNSファイル E-09.rns
ベースとウワモノシーケンスの役割を果たしているサイン波は、ファミコン的な8ビットとは質感が異なりますが、相性は抜群です。アシッドっぽいランダム感が特徴ですが、一応きちんと計算しています。逆にエレクトロニカっぽいノイズは適当です(笑)

 このソングファイルをエディットして制作した 「Ray」という曲がアルバムにも収録されています。
聴き比べると面白いかも?
実際に当社の音源を使っていただいたのですね!ありがとうございます。ちなみに「Ray」のような8ビット系の音楽や音色を作る上で上で鈴木さんのこだわりみたいなものはありますか?
 8ビット系の場合は同時発音数とゲート感、そしてエンベロープ・カーブ、チャンネルディレイ、デチューン、スウィープ、ビブラート。これらのパラメーターがサウンドに厚みや表情をつける重要な要素となり、サウンドの方向性を決定づける鍵となります。極力AUDIOファイルを使用せずMIDIデータ上で再現するという制約を設けるのも創作意欲を向上させます。
 
 ファミコンシュミレーションは日本人的な小手先テクニック満載な打ち込み教本的な部分があるのですが、mikron64に代表されるSID chipを使用したサウンドは細かな事よりも勢いが大事だったりして、8ビット系とはいえ音源方式によってまったく印象の違うサウンドデザインとなるのも面白いポイントで参考になります。
色々とこちらが勉強になるお話、ありがとうございます。
鈴木さんが今後欲しいライブラリーや音源などがあれば教えて下さい
図書館的な音源は巷にあふれていますので、変なのがいいですね。素材集だと79〜87年に特化したNEW WAVE集とか、プレートリバーブ集とか世界の壷(?)とか……ニッチすぎるかぁ。
世界の壺はまた、かなりニッチですね。。今後の活動やPRなどがあれば教えてください。
 自分の作品については毎日のように素材が出来ていくので、どのような形でもきちんと日の目をあててあげたいという気持ちが深くあります。HDDの片隅に眠らせておくのは可哀想ですから。

 SQUARE ENIXについては現在開発中タイトルを複数受け持ち進行中です。
こちらも是非チェックしてみて下さいね!
面白いお話、ありがとうございました!
HDに眠らしておくなんてもったいないです、是非リリースしてくださいね!